『保育園義務教育化』で紹介されていた『学力の経済学』を読みました。
著者は教育経済学者の中室牧子さん。
個人の体験談が語られることの多い教育分野において、エビデンスをもとに現代の家庭教育と学校教育における問題点と解決策を提示した1冊。
「子どもをご褒美で釣ってはいけないのか?」といった親の疑問にもエビデンスを使ってスパッ!!!と回答してくれている、なんとも痛快な本でした。
内容をご紹介します。
目次
内容
教育にエビデンスをという一貫した主張のもと、家庭教育において親が抱く疑問点、学校教育における問題点を教育経済学の視点で解決策を提示している本。
他人の子育ての成功体験を求める親は多いが、同じことをしたら自分の子どもも同じように成功する保証はない。
経済学者は「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という問いに対して
・目に見えないものを数字で示す
・因果関係を明らかにする
という2点を使って回答する。
この本では多数の経済学者が行った実験によって得られたエビデンスをもとに
家庭教育については
・子どもをご褒美で釣ってはいけないのか?
・子どもは褒めて育てるべきなのか?
・テレビやゲームは子どもに悪影響を及ぼすのか?
・教育にはいつ投資すべきか?
といった質問の、
学校教育については
・少人数学級には効果はあるのか?
・”いい先生”とはどんな先生なのか?
といった質問の答えを提示している。
感想
私が『学力の経済学』を読んで一番興味をもったのは、第5章「”いい先生”とはどんな先生なのか?」です。
理由は、ある方のブログについたコメントを読んで、最近ずっと考えていたことだったからです。
その方のブログ(あえてお名前は控えさせていただきますね。勝手に内容を拝借してすみません。)は〈子どもの小学校進学に向けて公立小学校の授業風景を見学に行ったところ、授業の進め方や学校教育のあり方が20年ほど前の自分の小学生時代とほとんど変わっていなくて、公立小学校の教育指導に疑問をもった。〉という内容のものでした。
そこについていたコメントが〈小学生を座らせてきちんとノートを取らせていることは凄いことだと考えることもできる。学級崩壊を起こしていないということだから、先生にそれなりの力量があると私は思う。〉という内容だったんです。(一部抜粋です。)
このコメントをした方は中学校で先生をされていた方のようです。
私はこのコメントを読んでものすごく驚いたんです。
学級崩壊していないことってすごいことなの?
当たり前のことじゃないの?
子どもの進学先を検討する時に、学級崩壊が起きそうかどうかという点から見極めなければいけないほど今の日本の学校のレベルは下がっているの?
まてまて、学級崩壊したクラスの担任は何をしているの?
校長は?学校は?教育委員会は?
えっ・・・てか、崩壊する前に止めないの?
そもそもなんで崩壊するの?
??????
その日以来、頭の中を????が飛び回っているのです。
そして、娘の進学についてずっとずっと考えています。
念のため申し上げておきますが、私はそのコメントした方を責めているとか、批判しているわけではありません。
むしろ、今の学校の現状を教えていただいて感謝しています。
私には、娘に学校の勉強ができる子になって欲しいとか、一流の大学に行って欲しいという考えはありません。
色々な本を読んで、むしろ、その考え方は危ういということを学んできたから。
ただ、学校で、勉強することの楽しさや勉強の仕方は学んできて欲しいと思っています。
勉強って子どもの時だけするものではないですよね。
大人になって、「メイクのことをもっと知りたい」とか、「カメラの技術を習得したい」とか思った時に、学び方がわからないと前に進めなくなります。
好きなのに、知りたいのに、勉強の仕方がわからない。
どこから知識を得たらいいのかがわからない。
それ以前に知識を取りに行くことに興味がわかない。
それって、すごくもったいないことだと私は思うのです。
好きなことができたら、自分から学べる子になって欲しい、知的好奇心をフルに使って進んで行ける子になってほしい。
そのための方法を学校の勉強を通して学んで欲しい。
学ぶのって楽しいことなんだって知って欲しい。
そんな親のささやかな夢さえ打ち砕かれる可能性が今の学校にはあるのかー!!!と悲しくなったのです。
前置きが長くなりました。
『学力の経済学』には、私のこの悩みに一筋の希望の光をさしてくれるような内容が書いてありました。
あらかじめ申し上げておきますが、学級崩壊の原因が100%教員にあるとは言いません。
子どもや、子どもの家庭環境にも原因はあるでしょう。
ただ、どちらに原因があるのかということについては、それこそ私はエビデンスを持ち合わせておりませんので、今回は原因の所在については触れず、教員の質という部分についてだけ書きます。
本書によると、教員の質をはかる方法には〈教員の担当した子どもの成績の変化でみる〉という「付加価値」というものがあるそうです。
この「付加価値」という考え方はアメリカでは一般的で、教員の名前さえわかれば、どこの誰でもアクセスできる情報として公開されているそうです。
「教員の質を子どもの成績だけで判断するのはちょっと乱暴では?」と思いますよね。
この点についてアメリカではすでに実験済みで、付加価値の高い教員は、10代で望まない妊娠をする確率を下げ、大学進学率を高め、将来の収入を高めていることがわかったそうです。
つまり、付加価値が高い教員(子どもの成績を伸ばせる教員)=質の高い教員というエビデンスがあるということです。
少し気持ちが明るくなりましたが、ここで問題が生じます。
①どうしたら教員の付加価値を高められるのか?
②個人の経験が優先され、中身のない議論ばかりしている政治家やお偉いさん方が、エビデンスをもとに話をするようになり、今の学校教育にしっかりと目を向け、問題改善のために付加価値という考え方を日本の教員に導入できるのか?
①については本書の中で筆者がエビデンスをもとにした解決策を提示してくれています。
②についてはかなりの難題のようです。
著者によると、日本では教員の質、給与、研修、免許が子どもの意欲や学力に与える因果効果について分析した研究は多くはないそうです。
理由は、国が集めたデータが研究者におりてこないから。
研究者の話に耳を傾けるどころか、国は研究者に必要なデータすら開示していないのが現状ということです。
本書に限らず、教育に関する本を読めば読むほどに思うのですが、なぜ日本の政治家は学者の意見に耳を傾けないのでしょうか?
日本にも優秀な学者がこれだけたくさんいて、実験を繰り返しながら論文を書いたり、本を書いたりして、今の日本の教育制度の問題点と解決策を丁寧に教えてくれているわけです。
それなのに、なぜ国は、政治家は、動かないのでしょうか?
研究者に国が集めたデータを提供しないのでしょうか?
日本の教育政策の深い闇を再認識した、というのが私が抱いた本書の一番の感想です。
ちなみに、日本の教育政策の闇について最初に教えてくれたのは↓
【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち
- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: 単行本
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『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の書評です。↓