平野啓一郎さんの『私とは何か 「個人」から「分人」へ』を読みました。
これは小説ではなく、ちょっと哲学的な本です。
Twitterで紹介されていて読んでみました。
哲学的な本は苦手で、途中で挫折するかもと思っていたのですが、予想外に面白い本であっという間に読み終えてしまいました。
著者は『マチネの終わりに』では普段ぜったい使わない難しい言葉を多用していましたが、今回はそれを完全に封印。
(理由についてはあとがきに記されていました。)
個人的には『マチネの終わりに』よりも『私とは何か 「個人」から「分人」へ』の方が面白かったです。
内容をご紹介します。
目次
内容
人間の基本単位を考え直すために書かれた本。
普段、私たちは「個人」という単位を使う。
日本語の「個人」とは、英語のindividualの翻訳である。
individualはin+dividualという構成で、divide(分ける)という動詞に由来するdividualに、否定の接頭辞inがついた単語である。
individualの語源は直訳するなら「(もうこれ以上)分けられない」という意味であり、日本では明治に入ってから「個人」と訳されるようになった。
「個人」とは西洋から輸入した概念なのである。
私たち日本人は、この「個人」という言葉により様々な問題を抱えている。
例えば、「本当の自分」「個性」という言葉に苦しみ、引きこもったり、自分探しの旅に出たりする。
個性と職業を結びつけさせようとする学校教育によって「自分のやりたいこと」が見つからずに焦り、せっかくついた仕事にやりがいを感じられずに日々を過ごす。
これらは「個人」という言葉の語源に問題があるのではないか。
著者はそう考え、「個人」という単位を使うのをやめ、あらたに「分人」という単位を導入することを本書で提案している。
「分人」とは英語でdividualと表記する。
individualのinをとり、人間を「分けられる」存在とみなすのである。
分人とは対人関係ごとの様々な自分のこと。
「恋人との分人」「家族との分人」「職場での分人」。
職場の中でも相手によって分人を使い分けることもある。
「友達との分人」の場合なら、高校時代の友達と大学時代の友達でも分人は異なる。
人によっては親友AとBの間でも異なるかもしれない。
そして、すべての分人を足したものが「その人」なのである。
「分人」の構成比率はその時によって変わる。
Cという恋人と付き合っている時は、その人の分人構成比率はCの割合が大きくなる。
Cが物静かな人なら、その人の性格も物静かなものになるかもしれない。
でも、Cと別れてDと付き合い始めれば、その人の分人構成比率はDが一番になる。
Dが明るい人なら、その人も明るい性格になるかもしれない。
このように、人は相手によってキャラを変えるが、それは相手から影響を受けているからであり、どれも本当の自分である。
どちらかが嘘の自分ということではない。
本書では、この「分人」という単位を使って、「個人」という単位によって生じた様々な人間関係に関する問題が解決されることを論じている。
感想
『私とは何か 「個人」から「分人」へ』は、ここ数年の私の悩みをすっと解決してくれる本でした。
子どもの頃から私には将来の夢がありませんでした。
「医者になりたい」とか「学校の先生になりたい」とか、目標がしっかりある子が羨ましかった。
私はずっと何になりたいかわからないまま成長し、大学を選び、就職先を決めました。
今までに2度転職をしていますが、最初はその仕事を楽しいと思っても、すぐに飽きてしまいます。
今の会社に就職して再び不満が募ってきた時に思ったんです。
私は会社で働くのは向いていないと。
これから先、何度転職しても必ず仕事を辞めたくなるだろう。
そう気づいてから、私の自分探しが始まりました。
会社で働くのが苦しいなら、自分の力で稼げばいい。
そう結論は出たものの、自分の力で稼げるような能力がないんです。何も。
本を読むのもブログを書くのも、私にとっては自分探しの過程です。
会社に属さずに「本当の自分」として生きていく方法を探して彷徨い歩いているのです。
前置きが長くなりました。
この本は、私をそんな苦悩から解放してくれました。
私を苦しめていた「本当の自分」や「個性」。
私はずっと自分には「個性」がないと思っていました。
だから「個性」を活かした仕事が見つからないのだと。
でも、著者は「個性とは誰にでもある。」と言っています。
そして、「職業の多様性は、個性の多様性と比べて遙かに限定的である。」とも。
つまり、みんながみんな「個性」を活かした仕事につくというのは無理な話だったんです。
その部分を読んで、なんだか心がすっと軽くなりました。
何もないと思っていた自分は何もなくなかった。
職場にいる自分は本当の自分ではないと思っていたけど、職場での自分を作っているのは同僚たちであり、職場にいる自分もまた本当の自分なんだと。
この「分人」という考え方は私の中にすんなり入ってきました。
これからは自分探しではなく、常に「本当の自分」として生きられそうです。
もし生きるのが辛くなった時は、「分人」の比率を変えて、少しでも長く好きな自分でいられる道を探します。
私のように「本当の自分」が見つからなくて悩んでいる方、人間関係で苦しんでる方にはぜひお薦めしたい一冊です。
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