池澤夏樹さんの『キップをなくして』を読みました。
この本は『子どもを本好きにする10の秘訣』で小学校5・6年生向けの本として紹介されていたものです。
ジャンルは命・生き方。
現実世界にありそうでない、不思議なお話でした。
目次
あらすじ
切手を集めるのが好きな小学5年生のイタル。
自分が生まれた年である昭和51年に発行された切手を集めており、ようやく最後の1枚が手に入れるため有楽町駅に向かっていた。
ところが、改札を出る時になってキップがないことに気づく。
するとそこへ、中学生くらいの一人の女の子が声をかけてきた。
「キップ、なくしたんでしょ。」
キップをなくすと駅から出られないからついてくるように言われたので従っていると、東京駅にある詰所というところに連れて行かれた。
そこは学校の教室のような空間で、小学校低学年から高校生くらいの子どもたちが過ごしていた。
彼らもキップをなくしてしまい、駅から出られなくなった子どもたち。
キップをなくしたために家に帰ることができなくなった彼らはステーション・キッズと名付けられ、駅と電車に関わる仕事をしている。
キップをなくしたイタルもそこでステーション・キッズとして仕事をすることになり、ひと夏の不思議な体験をする。
感想
現実にありそうでない、結局のところ詰所でのイタルの経験はなんだったのか、最後まで謎のままの不思議な物語でした。
死んだわけでもない、夢でもない、フィクションではあるけれどイタルにとっては現実に起こった話。
ならばイタルがステーション・キッズとして働いていた間、家族はイタルの不在についてどう思っていたのか?
その辺には一切触れられておらず、「親には連絡してあるから大丈夫」のひと言で片づけられてすべて謎のまま。
読み終わった後もその謎が気になって、どこかにヒントがあったのでは?ともう一度読み返したくなりました。
詰所でのイタルの経験は本当に不思議なことばかりなのですが、中でもミンちゃんの存在はイタルを大きく成長させます。
ミンちゃんは電車にひかれて亡くなった女の子。
まだ自分が死んだことに対して気持ちの整理ができず、ステーション・キッズとして詰所で過ごしています。
ミンちゃんのことを気にかけるうちに生死について考え始めるイタル。
物語の終盤でミンちゃんのおばあちゃんが話す「死を迎えた後の話」は、イタルを通して読者の心にも深く刻まれます。
生きている私たちにとって「死」は身近でありながら遠い存在。
「いま自分が生きていることは奇跡。明日生きている保障はないのだから、1分1秒を大切に生きよう。」
ついつい生きていることが当たり前になりがちな私たちに、そんな大切なことを教えてくれる物語でした。
『キップをなくして』が紹介されていた『子どもを本好きにする10の秘訣』はこちら。