幡野広志さんの『なんで僕に聞くんだろう。』を読みました。
「この人、いったい何者なんだろう。」と思いながら読みました。
目次
内容
著者は写真家の幡野広志さん。
2017年に多発性骨髄腫と診断されている。
本書は著者に寄せられた人生相談と、それに対する著者の回答を収録したもの。
悩みのジャンルは恋愛の悩み、病気の悩み、人生の悩みなどさまざま。
「家庭のある人の子どもを産みたい」
「ガンになった父になんて声をかけたらいいかわからない」
「自殺したい」
「自分の夢を親が許してくれない」
「兄を殺した犯人を今でも許せない」
といった比較的重たい話題に対し、時に優しく、時に厳しく、ときどき真顔で冗談を交えながら回答している。
感想
「私と生きている時間がほぼ同じなのに、なんでこの人は自分が経験したことのない他人の悩みにも、こんなに真摯に回答できるのだろう。」
そう思いながら本書を読み進めました。
人にはそれぞれの人生がある。
それはわかっていることだけれども、私の想像を超えるような経験をしている方、今もその状況に苦しんでいる方の質問には胸が締め付けられました。
虐待家庭で育ち、お小遣い欲しさに売春を始めたら、結婚した今も売春を止められずに苦しんでいる方。
毒親から離れたくて、売春をして一人暮らしをする資金を貯めたのに、親に稼ぐ力があると判断されて、家を出る条件に毎月10万円の親への仕送りを課せられて困窮し、売春をやめられなくなっている方。
兄弟を通り魔に殺されて、今も犯人を許せずに苦しんでいる方。
読みながら涙がこぼれそうになることもありました。
でも、私にはそれしかできないんです。
相手の悩みを聞いて悲しむ(同情する?)。
自分の想像をはるかに超えた環境に絶句するだけ。
著者は違います。
質問から相手の性格や置かれている状況(質問者の周りの方の想いなど)を分析し、質問者に著者が思う一本の道を提示します。
その回答はそっと相手に寄り添うもの、あえて相手を突き放すものなどさまざま。
でも、不思議と厳しい中にも優しさがあります。
本当に、ほぼ同じ時間しか生きていないのに、なんでこんなことができるのだろう。
この本の一番の不思議は、相談者の質問は著者に向けられたものであり、著者の回答は相談者に向けられたものであるにもかかわらず、著者は読者の背中もそっと押してくれること。
自分とは全然違う状況、環境に苦しむ人の悩みなのに、著者の言葉はなぜか私にとっても生きるヒントになるものでした。
この本の中に登場する質問者の多くは、社会の中で生きづらさを感じている人たちです。
「社会を知る。」「自分の知らないところで自分の想像をはるかに超える悩みに苦しんでいる人がいる。」、そして「自分の何気ない一言や行動で苦しんでいる人がいる。」ことを知るために、多くの人がこの本を手に取るべきだと思います。
著者の回答で救われる質問者はもちろんいると思うけど、社会が変わらなければ、根本的な解決にはならないと思うから。
そして、社会を変えるのは、他でもない、社会の中で生きる私たちだから。
本書の中に、「毒親に苦しむ人からの相談は来るけれど、毒親からの相談は来ない。」というフレーズがありました。
この一文に、今の社会のすべてが凝縮されている気がします。
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