『AI vs. 教科書を読めない子どもたち』の続編『AIに負けない子どもを育てる』を読みました。
前著はAIの技術に関する説明が多く、後半でやっとタイトルの「教科書を読めない子どもたち」について語られましたが、子どもたちに読解力を付けさせる方法までは示されていませんでした。
今回はAIに関する記述は少なめ。
本書の目玉であるRST(リーディングスキルテスト)体験版とRSTの構成、RSTの結果からわかる受験者の読解力レベル別タイプについて多くのページを割いています。
本書を読めば嫌でも自分の読解力がわかってしまうという、なんとも恐ろしい本です。
内容をご紹介します。
目次
内容
著者は国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長、一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長を務める新井紀子氏。
新井氏は、AIの可能性と限界について広く公開し、AI時代に正しく備えてもらうことを目標に、2011年から「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトを率いている。
このプロジェクトは日本人のAIリテラシーを向上させたと著者は自負。
ただ、大学入試問題は過去問が圧倒的に少ないという点で、現在のAI技術、特に自然言語処理技術の限界をクリアに示すためのベンチマークとして大きな課題があった。
その課題をクリアするため、著者は一貫性が保たれていて、公平で、高品質で、読解力を多面的に診断するためのベンチマークとしてRST(リーディングスキルテスト)を開発した。
RSTは「事実について書かれた短文を正確に読むスキル」を以下の6分野に分類してテストを設計している。
①係り受け解析
文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力。
②照応解決
指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力。
③同義文判定
2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力。
④推論
小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力。
⑤イメージ同定
文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力。
⑥具体例同定
言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力。
このRSTはAIの限界を示すために作られたものであったが、思わぬ誤算が生じた。
AIにとって難しかったことは、多くの中高生や大人にとっても難しかったのである。
AIの弱点を突き、人間のAIに対する優位性を明らかにするつもりだったRSTが、逆に、人間の読解力の低さを露呈させることになってしまった。
本書は、まだRSTを受験しておらず、その事実を知らない人々に現実を知ってもらうため、のべ11万人を越えるRST有償版の結果からわかったことをまとめたものである。
本書の第3章にはRST体験版を用意。
読者に自身の読解力を認識してもらったうえで、読者の子どもたち、生徒たちの読解力をあげるためにできることを本書の後半で提案している。
感想
先に申し上げておくと、本書で掲載されているRST体験版の私の結果は、〈係り受け解析〉〈照応解決〉〈同義分判定〉〈推論〉〈イメージ同定〉までは平均以上だけど〈具体例同定〉がボロボロでした。
(※平均以上:各項目6点以上取れていれば読解力に問題なしだそうです。)
本書では、RST体験版の結果から、以下のように読解力でタイプ分けがされています。
①理数系が苦手?〈前高後低型〉
②自力でもっと伸ばせる〈全分野そこそこ型〉
③中学生平均レベル〈全低型〉
④知識で解いてしまう〈前低後高型〉
⑤読解力ばっちり〈すべて10点満点型〉
完全に一致するものはなかったものの、RST体験版の結果から、私は①の「前高後低型」に一番近いようです。
本書ではタイプごとの特徴が書かれており、〈前高後低型〉に書かれている内容は、まるで私のことを書いているかのようでした。
「高校1年までには数学が苦手と思い始めたのではないか?」とか、「情報を大量に取り入れながらも新しい環境に尻込みしたり、反対するパターン。」とか。
「よくご存じで・・・。」と思いながら読みました。
どんな結果が出ても受け入れる覚悟で本書を手に取りましたが、採点する時はドキドキでした。
だって、読解力がないことが判明してしまったら、今まで読んできた本の内容をほとんど理解していないってことになりますから!!
結果、だいたいは内容を理解しているようです。
安心しました。
著者が私のRST体験版の結果を見たら、「具体例同定が全然解けていないじゃない。具体例同定以外が解けていても、これでは正しく読めているとは言えません!」と言うかもしれませんが。
本書のRST体験版を解いていて思ったのですが、私の場合は小学生の時の中学受験の勉強がものすごく役立っているのを感じました。
子どもの時の勉強はやっぱり大人になってからも役立つのだなと改めて思いました。
本書の目玉はRST体験版とその解説部分です。
自分の読解力を確認したいという方は第3章から第6章だけを読んでもいいと思います。
ただ、本書は前著よりも「なぜ今読解力が問われるのか?」という部分が簡潔にわかりやすくまとめられています。
自分の読解力を知るだけでは、⑤〈読解力ばっちり〉タイプの人以外、AIと共存する未来に生き残ることはできません。
ぜひ第1章から読むことをおすすめします。
本書の後半では、前著でとりあげられなかった、子どもの読解力をあげるための対策についても記載があります。
第8章では学校の授業に取り入れるもの、第9章では各家庭で行えることについて書かれています。
第9章の内容は幼児、小学校低学年、小学校中学年、小学校高学年と子どもの年齢層別に記載。
子どもの成長にあわせて確認できる、嬉しい構成です。
ただ、幼児期の内容は多くの育児関連の本にも書いてあるようなことなので、育児関連の本をたくさん読まれている方は期待しすぎない方が良いかもしれません。
OECDが発表した学習到達度調査(PISA)の結果を受け、数日前から日本の子どもたちの「読解力低下」が新聞やテレビ、SNS等で話題となっています。
PISAの対象は子どもですが、本書ではRSTの結果から、大人も文章を正しく読めていない人が多いと記されています。
(PISAとRSTはテストの形式が違いますので、必ずしもPISAの結果とRSTの結果が一致するとは現段階で言えません。)
本書を手に取るということは、自分の読解力を知るということです。
それはとても怖いことだと思います。
でも、本書には「大人も読解力はあげられる」と書かれています。
万が一、文章を正しく読めていないという結果が出ても、読解力を付けるための対策を打てます。
今年ももう終わり。
OECDの結果を受けて日本の読解力低下が話題になっていることですし、2019年を終えようとしている今が自分の読解力と向き合う絶好のチャンスです。
2020年を、AIと共存する未来を、気持ちよく迎えるために『AIに負けない子どもを育てる』を読んでみてはいかがでしょうか?
前著、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』のレビューはこちら。